メイコミュTopインタビュー:元サッカー日本代表・サッカー解説者 松木安太郎さん
カテゴリー:スペシャル
大人が“ゆとり”を持って接することで、子どもの個性が育まれる。
エネルギッシュで分かりやすいサッカー解説でおなじみの松木安太郎さん。小学3年生からサッカーを始めて以来、プレーヤーとして、指導者・解説者として、約50年にわたってサッカーに接してきました。そんな松木さんに、幼少時代や現役時代の思い出、そしてスポーツを通して学べることについて伺いました。
PROFILE
まつき・やすたろう/1957年生まれ
東京都出身。16歳で読売サッカークラブ・トップチームに最年少で選手登録され、日本リーグ戦で数々のタイトルを獲得。日本代表としても活躍する。90年に現役を引退後、93年にヴェルディ川崎の監督に就任。Jリーグ最年少監督として2年連続優勝に導く。その後もセレッソ大阪や東京ヴェルディの監督を歴任。近年は解説者として活躍するほか、サッカー教室なども行っている。
家ではおとなしく、外では活発だった幼少期
幼少時代はどんな遊びをしていましたか?
野球にベーゴマ、それにメンコ。東京オリンピックを境に普及したカラーテレビにかじりついて、まさに映画『ALWAYS 三丁目の夕日』で描かれたような風景の中で育ちました。世の中は高度経済成長期で、「努力」「我慢」が合言葉。みんなが「頑張って日本を変えよう!」としていた時代でした。
こう見えて、子どものころはおとなしい性格だったんです。というのも、父が本当に厳しくて。起床時間や言葉遣いなど、あらゆるしつけを叩き込まれました。毎日、合宿生活みたいなものです(笑)。なるべく怒られないように、家ではおとなしくしていました。
反抗期に父親に反発したくなる気持ちは芽生えませんでしたか?
そりゃあ、いつか反撃してやろうと思ってましたよ(笑)。でも、おとなしかったのは家での話。学校や近所では活発に友だちと遊んでいたので、家でのモヤモヤは発散できていました。今思えば、そうやって家庭と学校で頭を切り替えながら、気持ちのバランスをとっていたのかもしれません。
父は厳しかったけれどたくさん遊んでくれたし、私がやりたいと思うことはチャレンジさせてくれました。それに、父の厳しさに耐えた経験が“我慢強さ”という自分の武器を育んでくれたので、本当に感謝しています。
「楽しい」「好き」という感情が継続の原動力に
小学3年生のときにサッカーを始めたそうですが、きっかけを教えてください。
当時、男の子のスポーツといえば野球。私もよく家の前の公園でプレーしていました。でも、野球は打順が回ってくるまで待たないといけないでしょう。私はあれが苦手で(笑)。入学した小学校に珍しくサッカー部があって、友だちが楽しそうにプレーする姿を見て、「やりたい!」と思ったんです。サッカーは常にボールを追いかけて走り回れるし、何より衝撃的に楽しかった。あっという間に夢中になりました。
その後、才能とガッツあるプレーが認められ、16歳にしてクラブのトップチームへ。ハイレベルな環境の中で、挫折することはありませんでしたか?
「サッカー=楽しいもの」という気持ちが根底にあったので、やる気が下がることはありませんでした。練習はハードでよく怒られましたが、どんどん自分が上達していくのがうれしかったですね。スポーツ全般でいうと、たくさん練習しているのに上達しないことはよくあること。そこであきらめずに続けるためには、やっぱりその競技が「楽しい」「好き」という気持ちが欠かせないと思います。
勝ち負けから得た感情が人間を成長させる
徒競走で子どもに順位をつけないなど、近年、結果よりプロセスを重視する教育が注目されています。長年、勝ち負けの世界で生きてこられた立場から、どう思われますか?
もちろん、プロセスは大切です。でも、勝ち負けという結果があるからこそ、勝ったときの喜びが、負けたときの悔しさが生まれます。その先には、「また勝ちたい」「次こそ勝つぞ」というポジティブな感情が育まれます。あるいは、勝つための方法を考えるという、新しいプロセスも生まれる。人はそうやって、人間的に成長を繰り返していくものだと思います。
私自身も、「悔しい」「負けたくない」という気持ちが大きなバネになりました。子どもたちにも、そういう感情を自然に育み、学ぶ経験をしてほしいなと思いますね。
子どもの個性を引き出すためのシンプルな言葉がけ
松木さんは毎年、千葉県市川市で少年サッカー大会「松木杯」を開催されています。多くの子どもたちと接してきて感じることはありますか?
小学6年生の控え選手にスポットライトをあて、最後の夏の試合に出場させてあげたい――。そんな想いで始めた「松木杯」は、スタートからもう30年以上が経ちました。この大会に出場した子どもの中からプロになった選手もいるんですよ。でも、プロだからといって、子どものころから上手だったとは限らないんです。もっと上手になりたいと懸命に努力したからこそ結果につながったんです。子どものころにうまい、下手を決め付けることはできないと思いますね。
子どもを指導する際に心がけていることを教えてください。
うまい、下手に関わらず、プレーの基本は子どものころに作られるものだと思います。できるだけ良い基礎を作るために、指導するときは子どもたちの個性を尊重しています。例えば、ボールの蹴り方ひとつをとっても、さまざまな方法や得意なスタイルがあるはず。なので、教えるときは「ゴールに向かって蹴ってごらん」とだけ伝えるようにしています。どう蹴るか、どの辺りに蹴るかなど、細かく指示しない方がその子の長所や個性を見付けやすいんですよ。
すぐに得意なスタイルを見付ける子もいれば、時間がかかる子もいます。でも、大人は型にはめたがったり、効率を優先したりする傾向が見受けられます。「ゆとり教育・ゆとり世代」という言葉が注目されていますが、本当に“ゆとり”が必要なのは大人たちの方かもしれませんね。
長年サッカーに関わってきて、思うことはありますか?
2002年の日韓ワールドカップ以降、サッカーがやっと日本に浸透してきたと感じます。ポピュラーではなかった時代からサッカーに関わってきた人間として、今の状況はすごくうれしい。そんな時代の移り変わりを経験して、継続することの大切さを改めて感じます。昔は「サッカーなんてやってないで、もっと有意義なことをしろ」と言われましたからね。でも、サッカーを続けてきて本当によかった。
解説者としては「一人でも多くの人にサッカーの楽しさを伝えたい!」、その一心ですね。特に難しいことは考えてないですよ(笑)。
こちらの記事は、親子で楽しむ情報マガジン『oyakoto(オヤコト)』2016秋号でもお読みいただけます。
この記事へのコメント
ログインをしてコメントをする。アカウントをお持ちでない方はこちらからご登録ができます。
1件のコメント - この記事の感想を募集しています!
あの時、強いチームだったですよね。私もファンでした。きっと、人を育てるのが上手なんですね。良く人を観察し、どうしたら伸ばせるか、良い部分を引き出せるかを見ているんでしょうね。
我が子にはどうしても気持ちに余裕がなくて、感情で接してしまうことが多くなってしまいます。もう少し心にゆとりを持っていきたいと思いました。